「割賦販売法改正についての意見書」(2015年10月22日)
2015年(平成27年)10月22日
経済産業大臣 林 幹 雄 殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 河 野 太 郎 殿
消費者庁長官 板 東 久美子 殿
内閣府消費者委員会委員長 河 上 正 二 殿
独立行政法人国民生活センター理事長 松 本 恒 雄 殿
京 都 弁 護 士 会
会長 白 浜 徹 朗
割賦販売法改正についての意見書
第1 意見の趣旨
当会は、割賦販売法改正について、下記のとおり意見を述べる。
なお、以下の用語は、産業構造審議会商務流通分科会割賦販売小委員会報告書「クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて」(2015年(平成27年)7月3日)に準じる。
1 アクワイアラーに対して義務的な登録制を導入すべきであるが、加盟店との契約時における業種、取扱商品・役務等の確認といった初期審査のみならず、最低限の途上審査をアクワイアラーが実施することとして、当該途上審査についての記録及び記録の保存を義務付けるとともに、苦情発生時にはオンアス取引と同様の調査を義務付けるべきである。
2 PSPの登録制については、任意登録制では不十分であり、少なくともPSPのうち包括加盟店型については、アクワイアラーと同様に義務的な登録制を導入し、無登録営業について罰則を定めるべきである。
3 イシュアーに対して加盟店に関する苦情があった場合に、当該苦情をアクワイアラーに伝達する義務をイシュアーに負わせるとともに、かかる義務を怠った場合には行政処分の対象とするなど、義務履行を担保する制度にするべきである。
4 新たに位置づけるアクワイアラー及びPSPも認定割賦販売協会の会員となることができるものとするとともに、両者が加盟店情報交換制度を利用できるようにするべきである。
5 独立行政法人国民生活センターが収集した加盟店に関する相談・苦情情報について、同センターが定期的に認定割賦販売協会に提供する制度を創設すべきである。
第2 意見の理由
1 総論
2008年(平成20年)の割賦販売法改正時に予定されていた同法の見直しについて、産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会から2015年(平成27年)7月3日付で報告書「クレジットカード取引システムの健全な発展を通じた消費者利益の向上に向けて」(以下「報告書」という。)が発表された。
報告書では、カード発行会社(以下「イシュアー」という。)と加盟店契約会社(以下「アクワイアラー」という。)が国際ブランド会社を介して分離し、さらに加盟店契約に際して審査等に関与する主体(いわゆる決済代行業者の一部。(以下「PSP(ペイメントサービスプロバイダー)」という。)が増加しつつあることが指摘されている。
その上で、主に海外アクワイアラー等が介在するクレジットカード取引で消費者被害が多発している現状を踏まえた措置が提示されているが(報告書17頁以下)、なお不十分な点も見受けられる。
そこで、以下では、報告書で提示された措置を前提に、これに対する意見を述べる。
2 アクワイアラーの登録制及び加盟店調査義務について(意見の趣旨第1項)
報告書で、アクワイアラーについて、国内に営業所を有すること等を要件とした登録制が提示されていることは、現状の海外アクワイアラー経由の取引における消費者被害対策として評価できるため、賛成である。
他方、報告書ではアクワイアラーは加盟店調査業務を主に行うこととされ、その職責は重要となっている反面、実際の加盟店調査の方法については各アクワイアラーが合理的な判断に基づいて審査体制を構築するとされている。
しかし、現状悪質加盟店によるクレジットシステムを利用した消費者被害が多数発生していることからして、審査体制をアクワイアラーに委ねるだけでは不十分である。
少なくとも、定期的に加盟店の事業形態、商品・役務内容等の確認した結果や、売上のキャンセル件数等をアクワイアラーが記録し、保存しておくべきである。
また、現行の割賦販売法及び同施行規則では、イシュアーが加盟店関係の苦情処理を行うことを前提に、オンアス以外の取引については、苦情発生時の調査は発生状況を踏まえて調査することとされている(割賦販売法30条の5の2及び同施行規則60条3号ロ)。
今般、アクワイアラーが加盟店調査義務を負うことで整理されることとなったのであれば、オンアス以外の取引でも、オンアス取引と同様の調査義務(加盟店に関する苦情が不実告知等に該当する場合は一件であろうと調査し、その他の苦情は発生状況を踏まえて調査する。割賦販売法30条の5の2及び同施行規則60条2号イ、3号ロ参照)をアクワイアラーが負うべきである。
3 PSPの登録制について(意見の趣旨第2項)
複数の店子を包括する形で、アクワイアラーとの間で加盟店契約を締結する包括加盟店型PSP(報告書別紙1)については、現状登録制等の規制がなく、監督官庁も存在しないことにより、その加盟店に対する審査・管理体制が整備されていない業者が多数参入している。
その結果、いわゆるサクラサイト業者などの悪質加盟店をクレジットカード取引に参入させる包括加盟店型PSPが増加し、クレジットシステムを利用した消費者被害を多数発生させている。
これに対して、報告書ではPSPについて任意的な登録制を導入するべきとされているが、任意的な登録制では無登録のPSPについては規制が及ばないこととなってしまう。
この点、無登録の包括加盟店型PSPについては、報告書ではアクワイアラーによる調査及び管理が想定されているが、この場合、アクワイアラーにとって当該PSPの加盟店は直接の契約関係にないため、アクワイアラーによる調査及び管理は困難である。
したがって、少なくともPSPのうち包括加盟店型については任意的な登録制では不十分であり、アクワイアラーと同様に義務的な登録制を導入して、無登録営業について罰則を定めるべきである。
4 イシュアーのアクワイアラーに対する苦情伝達義務について(意見の趣旨第3項)
報告書では、加盟店調査がイシュアーから切り離され、アクワイアラーに係る規定として位置づけられることが想定されているが、消費者からの苦情をまず受けるのは通常イシュアーであるから、アクワイアラーが加盟店調査を実効的に遂行するためには、イシュアーからアクワイアラーに対し、加盟店に関する苦情が適切に伝達されることが必要である。
しかし、イシュアーがアクワイアラーに対し苦情を伝達することを怠った場合に、イシュアーが何ら責任を負わないとなると、加盟店調査の実効性が確保できないこととなる。
したがって、加盟店調査の実効性を確保するため、イシュアーがアクワイアラーに対して苦情を伝達することを怠った場合には業務改善命令・業務停止・登録取消等の行政処分の対象とするなど、イシュアーの義務履行を担保する制度にするべきである。
5 アクワイアラー及びPSPの認定割賦販売協会への加入について(意見の趣旨第4項)
報告書では、新たに位置づけるアクワイアラー及びPSPも認定割賦販売協会の会員となることができるとするとともに、両者がいわゆる加盟店情報交換制度を利用して、加盟店に関する情報を報告することができ、情報の提供も受けられるとされている。
これらは、悪質加盟店に関する情報の共有及び悪質加盟店排除に資するものであり、報告書の内容で実現されるべきである。
6 独立行政法人国民生活センター収集情報の有効活用について(意見の趣旨第5項)
独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)はPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)により、国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる消費生活に関する相談・苦情情報(消費生活相談情報)の収集を行っている。
PIO-NETでは、クレジットカード決済に関わる相談が年間約5万件集積されており、その規模や収集範囲は比類がない。
また、PIO-NETの情報は信頼性が高く、民事訴訟や政府内の審議会等でも資料として重視されている。
報告書では、国民生活センターの相談・苦情情報の有効活用等推進について「必要に応じて措置を講ずる」としか述べられていないが、国民生活センターが収集した加盟店に関する相談・苦情情報については、定期的に認定割賦販売協会に提供する制度を創設し、加盟店管理等に利用すべきである。
以 上