遺言について

第1 遺言書の種類,書き方

1 遺言書のメリット

⑴ 遺言書がない場合,上記の通り,遺産分割協議を行うことが必要となる。協議がまとまらなければ,調停,審判等の法的な手続を経る必要がある。そのため,遺産分割が終了するまでに何年もかかる場合がある。遺言書があれば,遺産分割協議をする必要はない。

⑵ 遺産分割が終了するまでの間,相続財産は,相続人全員で共有することとなるので,相続人単独では相続財産を処分することができない。遺言書があれば,遺言書に従って速やかに財産を取得でき,財産の処分も可能になる。

⑶ 法定相続人による法定相続分に従った遺産分割が行われると,生前ほとんど付き合いのなかった相続人等,思わぬ人が相続人となることがある。遺言書を作れば,法定相続人はもちろん,法定相続人以外の者(たとえば,長年連れ添った内縁の妻,面倒を見てくれた長男の嫁等)に対しても,自分の財産を取得させることができる。 遺言の種類には,①自筆証書遺言,②秘密証書遺言(※1),③公正証書遺言の3種類がある。ここでは,①自筆証書遺言,③公正証書遺言について解説する。

※1:秘密証書遺言は,遺言者が遺言書に署名・押印して封筒に入れ,同じ印で封印し,公証人,証人2人以上の前で自分の遺言書であることを申し述べる等して,公証人が証人とともに署名・押印する方法。家裁の検認が必要。

2 自筆証書遺言の作り方

⑴ 作成方法

ア 自筆であること

すべて,自筆で書面にする必要がある。パソコンで作成したり,口述した内容を他人に筆記してもらったり,代理人に作成してもらうことはできない。したがって,遺言者が文字を書けない場合には,この方式では遺言書を作成することはできない。

イ 日付の記載があること

実際に遺言をした日の日付を記載する。西暦,元号のいずれでも構わないが,日付の特定ができるよう明確に記載する。「平成24年3月吉日」の記載は,日付の特定ができないため遺言全体が無効となる。

ウ 遺言者の署名・押印があること

押印に使用する印鑑は,実印である必要はない。複数枚にわたるときは,綴じ目に契印(けいいん)をしておく。

エ 加除訂正の方法

①該当箇所を二重線で抹消する,②その部分に押印する,③欄外に訂正した旨の記載をする,④付記した場所に署名をする。 加除訂正の方法を誤ると,遺言全体が無効になるおそれがあるので,全文を書きなおした方がベター。

オ その他の注意点

夫婦や親子であっても,共同で遺言書を作成することはできない。それぞれが別々に遺言書を作成する必要がある。 筆記用具や用紙に制限はないが,鉛筆は避けてペン書きにすべきであり,用紙もなるべく丈夫なものを使用すべきである。

⑵ 保管方法

特に規定はないが,封筒に入れて,遺言書である旨を記載し,封をしておくのがベター。保管場所については,あまり分かりにくいところに隠すと相続人が遺言書を見つけられない。貸金庫や法律事務所に預けるのも一つ。
3 公正証書遺言の作り方

⑴ 公正証書遺言とは

公証人が,法律で定められた方式に従って作成する遺言書のこと。公証役場で作成する(京都市の場合:京都市中京区東洞院通御池下る笹屋町436-2 シカタディスビル5階)。

⑵ 作成方法

  • ア 遺言の内容を決める
  • イ 必要書類を準備する
  • ウ 証人2人以上の確保
  • エ 公証人との事前打合せ
  • オ 公証役場において作成

⑶ 保管方法

公正証書遺言は,原本,正本及び謄本が作成される。このうち,原本は公証人により保管される。遺言者には,正本,謄本が交付される。
4 自筆証書と公正証書と,どちらが良いか

⑴ 自筆証書遺言

ア メリット

  • 自分1人で簡単に作成できる
  • 費用がかからない
  • 遺言書の存在と内容を秘密にしておける

イ デメリット

  • 方式の不備で無効になるおそれ
  • 内容の解釈が問題となるおそれ
  • 相続人間で,遺言能力等が争われるおそれ
  • 紛失や改ざん,偽造のおそれ
  • 遺言書が発見されないおそれ
  • 家庭裁判所での検認手続が必要(別紙1参照)

⑵ 公正証書遺言

ア メリット

  • 方式の不備で無効となることがない
  • 内容実現の確実性
  • 遺言能力等で争われるおそれが少ない
  • 紛失や改ざんのおそれがない
  • 相続人が遺言書の存在を検索できる(※2)
  • 家庭裁判所での検認が不要

イ デメリット

  • 手間と費用がかかる。
  • 公証人と証人に内容を知られる。
  • ※2:相続人など利害関係を有する者は,全国どこの公証役場においても,被相続人が遺言書を作成していたかどうかを検索することができる。遺言書が作成されていた場合には,遺言書を作成した公証役場において,遺言書の閲覧,及び謄本の作成を請求することができる。

    5 弁護士に依頼するメリット
    • 戸籍謄本等,資料収集の手間が省ける。
    • 相続人調査や財産関係の調査をしてもらえる。
    • 方式の不備で遺言が無効になったり,内容の解釈で争いとなることがない。
    • 法律的に見て妥当かつ相当な内容の遺言を残すことができる。
    6 遺言を残した方がよいケース

    ⑴ 子供のいない夫婦

    夫婦のどちらかが亡くなれば,義理の両親や義理の兄弟と遺産分割,場合によっては,生前ほとんど交流のなかった義理の甥,姪らと遺産分割をしなければならないことになる。遺言を残しておけば,特に遺留分のない兄弟,甥姪を排除することができる。

    ⑵ 未成年の子がいる場合

    自分が死亡した後親権者がいなくなる場合,最後に親権を行う者は,遺言で未成年後見人を指定することができる。遺言で指定していない場合は親族等の請求により家庭裁判所が選任することとなるが,適任者が見つからない等,子の立場が不安定になる可能性がある。

    ⑶ 法律上の相続人以外に財産を残したい場合

    特に,籍を入れていない事実上の夫婦(内縁)の場合,法律上は相続権がないので,配偶者に財産を残すためには必ず遺言を作っておく必要がある。

    ⑷ 遺産が不動産しかない場合

    不動産をどう評価し,どう分配するかで協議がまとまらない。
    7 遺言執行者について
      遺言の中で遺言執行者を指定しておくことができる。 遺言執行者は、相続人の代理人とみなされ、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利・義務を有する。遺言執行者がいれば、相続人全員で遺言執行のための手続を行う必要はない。

    第2 遺言作成の費用について

    1 弁護士費用
      京都弁護士会・遺言相続センターでは,遺言作成の手数料として,原則として上限10万円(税別)としております。ただし,事案が複雑である等,「特段の事情」がある場合には,依頼者と協議の上,30万円(税別)を上限として定めることができます。
    2 公証人役場の手数料
      遺言の目的である財産の価額に対応する形で,以下のように定められています。詳しくは公証人役場までお問い合わせ下さい。
    目的財産の価額 手数料の額
    100万円まで 5,000円
    200万円まで 7,000円
    500万円まで 11,000円
    1000万円まで 17,000円
    3000万円まで 23,000円
    5000万円まで 29,000円
    1億円を超える部分については下記の金額がそれぞれ加算されます。
    1億円まで 43,000円
    1億円を超え3億円まで 5000万円毎に 1万3,000円
    3億円を超え10億円まで 5000万円毎に 1万1,000円
    10億円を超える部分 5000万円毎に   8,000円